アメリカ留学が「最長4年」に
D/S(Duration of Status)廃止を徹底解説
1978年から約半世紀続いてきた米国留学の在留管理の仕組みが、2026年9月15日に変わります。F-1ビザの学生に認められてきた「在学中はずっと滞在可」という扱い(D/S: Duration of Status)が廃止され、滞在期限は最長4年の固定制になります。何がどう変わり、いま留学中の人・これから出願する人は何をすべきか。官報・米国土安全保障省・大学国際オフィスの一次情報だけを根拠に整理しました。
01D/S(Duration of Status)とは何だったのか
米国に学生ビザ(F-1)で入国すると、出入国記録(I-94)に滞在期限が記載されます。従来、F-1学生の欄には日付ではなく「D/S」という2文字が入っていました。Duration of Status — 「学生としての身分を保っている期間は、滞在してよい」という意味です。
この仕組みの実務上の意味は大きなものでした。留年しても、学部から大学院に進学しても、在籍校が発行するI-20(入学許可証)が有効である限り、米国政府への延長申請は一切不要。大学の国際オフィスがSEVIS(留学生管理システム)上で在籍を管理していれば、それで在留資格が維持される。1978年の導入以来、約半世紀にわたって米国留学の前提だった運用です。
2026年7月17日、米国土安全保障省(DHS)はこのD/Sを廃止する最終規則を官報(Federal Register 91 FR 44976)に掲載しました。施行日は掲載から60日後の2026年9月15日。対象はF(学生)・J(交流訪問者)・I(報道関係者)の3つのビザカテゴリーで、日本人留学生の大半が使うF-1ビザが正面から影響を受けます。
02何がどう変わるのか — 新旧比較
新規則の核心は、滞在許可が「身分ベース」から「日付ベース」に変わることです。入国時にI-94へ具体的な期限日(Admit Until Date)が記載され、その日を過ぎて滞在するには政府への延長申請が必要になります。
| 項目 | 旧ルール(D/S) | 新ルール(2026年9月15日〜) |
|---|---|---|
| 滞在期限 | 期限日なし。学生身分を保つ限り滞在可 | I-20のプログラム終了日まで。上限4年の固定期限 |
| プログラムが延びた場合 | I-20の更新のみ(政府申請不要) | USCISへ延長申請(I-539)または出国・再入国が必要 |
| 卒業後の猶予期間 | 60日 | 30日に短縮 |
| 語学留学(English language training) | 身分を保つ限り継続可 | 通算24ヶ月が上限 |
| 公立高校(F-1) | 12ヶ月(従来から) | 通算12ヶ月(変更なし) |
注意したいのは、上限4年は「4年経ったら強制帰国」ではないという点です。4年制学部を予定どおり卒業するなら、期限はプログラム終了日に設定され、延長申請なしで完結します。問題になるのは、プログラムが4年を超える場合と、途中で予定が延びた場合です(第4章・第6章で詳述)。また、パスポートの有効期限が滞在予定より短い場合は、期限がパスポート失効日までに制限される点にも注意が必要です。
03いま留学中の人はどうなる — 経過措置と「出国の罠」
施行日の2026年9月15日時点で、すでにD/Sで米国に滞在している学生には経過措置が用意されています。現在のI-20に記載されたプログラム終了日(OPT中の人は就労許可証の失効日)までは、D/S扱いのまま滞在を続けられます。卒業後の猶予期間も60日が維持されます。ただし経過措置には上限があり、施行から約4年で打ち切られます。
最大の落とし穴は出国です。施行日以降に一時帰国などで米国を出て再入国すると、その時点で経過措置の対象から外れ、固定期限のI-94が発行されます。猶予期間も30日に切り替わります。冬休みの一時帰国が、在留管理上は「旧制度から新制度への切り替えスイッチ」になるということです。帰国を予定している在学生は、再入国後に自分のI-94の期限日がどう記載されたかを必ず確認してください(I-94はCBP公式サイトで照会できます)。
044年を超えるとき — 延長申請(I-539)の実務
期限を超えて滞在する必要がある場合の手段は2つ。USCIS(米国移民局)への滞在延長申請(EOS: Extension of Stay、Form I-539)か、一度出国して新しいI-20で再入国するかです。
I-539の申請費用はオンライン420ドル、郵送470ドル(2026年8月時点の現行料金)。重要なのは審査中の扱いで、期限が切れる前に適時申請していれば、審査結果を待つ間も不法滞在(unlawful presence)にはならず、フルタイムの就学を継続できます。逆に言えば、期限管理を怠って申請が遅れると、そこから先は在留資格の問題に直結します。従来は大学任せにできた期限管理が、学生本人の責任に変わる — これが新制度の実務上の本質です。
05OPT・編入・専攻変更への影響
OPT — 2027年3月18日がライン
卒業後の就労制度OPT(Optional Practical Training)にも手続きが追加されます。OPT・STEM OPTの期間が滞在期限を超える場合、就労許可申請(I-765)に加えて滞在延長申請(I-539)も必要になります。経過措置として、D/Sで在留中の学生が2027年3月18日までに卒業後OPTを適時申請する場合はI-539が免除されます。それ以降の申請は二重の手続きと費用(I-765に加え420〜470ドル)が発生します。OPTの制度自体はOPT完全ガイドで詳しく解説しています。
編入・専攻変更 — 新設された制限
あまり報じられていませんが、新規則には学業上の移動を制限するルールが含まれています。学部レベル以下では最初の1学年の間、専攻変更・レベル変更・転校が不可。大学院レベルでは原則、在学中の専攻・プログラム変更や転校が不可となります。さらに、プログラム修了後に同レベル以下の新しいプログラムへ入り直すことは禁止され、進学できるのは上位レベルのみです。コミュニティカレッジ経由の編入ルート(編入留学完全ガイド参照)を組む場合、1年目に転校できない制約はプラン設計に直接影響します。
06ケース別 — 日本人留学生への影響
日本は、国籍を理由とした特別な短縮措置の対象ではありません。そのうえで、進路タイプ別に影響を整理します。
07訴訟の行方 — 施行は止まるのか
この規則には米国の教育界が総力で反対しています。規則案の段階で寄せられたパブリックコメントは約22,000件、その過半数が反対でした。2026年8月18日には、NAFSA(国際教育者協会)、Presidents' Alliance、米国教員連盟(AFT)など8団体の連合がマサチューセッツ連邦地裁に提訴し、施行の仮差し止めを申し立てました。8月26日には、カリフォルニア州・ニューヨーク州の司法長官が主導する20の州・法域が、規則に反対する意見書(アミカスブリーフ)を裁判所に提出しています。
原告側の主張の柱は、行政手続法(APA)違反です。数十億ドル規模と定量化されたコストに対し、定量的な便益がゼロのまま規則を確定したこと、パブリックコメントに実質的に応答しなかったことなどを挙げています。仮差し止めの審理は2026年9月3日に予定されており、8月末時点で差し止め命令は出ていません。つまり現時点では9月15日の施行予定が生きている状態です。
留学準備の観点では、「訴訟で止まるかもしれないから様子見」はおすすめしません。止まればそれに越したことはなく、止まらなければ新ルールが前提になる。どちらに転んでも対応できるよう、新制度を前提にプランを組んでおくのが合理的です。ビザ申請手続きの全体像はF-1ビザ完全ガイドを参照してください。
FAQ
よくある質問
D/S(Duration of Status)とは何ですか?
「学生としての身分(Status)を保っている期間(Duration)は滞在してよい」という米国の在留管理の仕組みです。1978年から続いてきた制度で、F-1ビザの学生はI-94(出入国記録)に期限日ではなく「D/S」と記載され、留年や進学でプログラムが延びても米国政府への延長申請は不要でした。2026年9月15日施行の新規則で、この仕組みが廃止され固定期限制に変わります。
すでにアメリカに留学中ですが、9月15日以降どうなりますか?
施行日時点で米国内にD/Sで滞在している学生は、現在のI-20のプログラム終了日(OPT中は就労許可証の失効日)までD/S扱いのまま滞在でき、卒業後の猶予期間も60日が維持されます。ただし経過措置には上限(施行から約4年)があります。注意すべきは出国で、施行日以降に一度出国して再入国すると経過措置から外れ、固定期限(上限4年)+猶予30日の新ルールに切り替わります。
4年で卒業できない場合はどうなりますか?
期限(Admit Until Date)が切れる前に、USCIS(米国移民局)へForm I-539で滞在延長(EOS: Extension of Stay)を申請するか、一度出国して再入国する必要があります。申請費用はオンライン420ドル、郵送470ドルです。期限内に適時申請すれば、審査中も不法滞在にはならず、フルタイムの就学を続けられます。
5年制プログラムや博士課程はどうなりますか?
入国時に認められる期間の上限が4年のため、建築や薬学などの5年制プログラム、平均修了年数5.7年とされる博士課程では、在学途中の延長申請が構造的に必須になります。博士課程では複数回の延長が必要になるケースも想定されます。この点は20州の司法長官が「4年上限は博士教育の実態と矛盾する」と裁判所への意見書で指摘しています。
OPT(卒業後の就労制度)には影響がありますか?
あります。新ルールでは、OPT・STEM OPT期間が滞在期限を超える場合、就労許可申請(I-765)に加えて滞在延長申請(I-539)も必要になります。経過措置として、D/Sで在留中の学生が2027年3月18日までに卒業後OPTを適時申請する場合はI-539が不要です。それ以降は二重申請となり、費用と手続きの負担が増えます。
編入や専攻変更はできなくなりますか?
新規則には学業上の移動を制限するルールが盛り込まれました。学部レベル以下では最初の1学年の間、専攻変更・レベル変更・転校ができません。大学院レベルでは原則、在学中の専攻変更や転校が不可となります。また、プログラム修了後に同レベル以下の新プログラムへ入り直すことも禁止されます(進学できるのは上位レベルのみ)。コミュニティカレッジからの編入ルートを検討している場合は、1年目の転校制限に注意が必要です。
この規則は裁判で止まる可能性はありますか?
2026年8月18日に、NAFSA(国際教育者協会)や米国教員連盟など8団体の連合がマサチューセッツ連邦地裁に提訴し、仮差し止めを申し立てています。20の州・法域の司法長官も規則に反対する意見書を提出しました。仮差し止めの審理は9月3日に予定されており、2026年8月末時点では差し止め命令は出ておらず、9月15日の施行予定は維持されています。裁判の結果次第で施行が止まる可能性は残っています。
日本人留学生は特に厳しい制限を受けますか?
国籍を理由とした特別な短縮措置の対象に日本は含まれていません(報道関係者向けIビザで中国本土パスポート保持者が90日に制限される規定はあります)。標準的な4年制学部に進学し4年で卒業する場合、実務上の影響は限定的です。影響が大きいのは、留年・休学・5年制課程・博士課程・編入・語学留学(通算24ヶ月上限)のケースです。
References
参照元
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01
Federal Register — Establishing a Fixed Time Period of Admission (91 FR 44976) 最終規則の官報原文(2026年7月17日掲載)
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02
DHS(米国土安全保障省)プレスリリース 最終規則の公表発表(2026年7月16日)
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03
Study in the States(DHS公式)最終規則FAQ 留学生向け公式FAQ
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04
NAFSA — Legal Defense of Duration of Status 差し止め訴訟の経緯(国際教育者協会)
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05
NYU Office of Global Services — D/S変更FAQ 大学国際オフィスによる実務解説
- 06
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07
ICEF Monitor — US coalition files lawsuit 訴訟の報道(2026年8月18日)
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08
カリフォルニア州司法長官 — アミカスブリーフ発表 20法域の司法長官による意見書(2026年8月26日)
※ 2026 年 09 月 時点の情報。最新は各公式サイトでご確認ください。